この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場所、事件等は著者の想像によるものです。実在のものとは一切関連がなく、また、実際の出来事に基づくものではありません。
暗闇が渦巻く。意識が霧の中を彷徨う。
冷たい風が頬をなでる。目を開けると、見知らぬ公園。どこだ、ここは?記憶が欠落している。
ゴミ箱から拾った弁当の匂いが鼻をつく。腹は鳴るが、胸に広がる不安はそれ以上に大きい。
「ここは昔の北海道だよ」
老人の声が耳に響く。北海道?いつの間に?
星空が歪む。火の玉が水面から昇る。
「戦いは我々の勝利だ」
誰かの声。バオバオ?ホー?レン?名前だけが浮かぶ。顔が思い出せない。
勝利?何に対する?
「こんにちは、これあげる」
不思議な人影。オレンジ色の目。金属音の声。
古びた黄色いバッグ。中には小さなスマホのようなもの。30個?
意味がわからない。頭が混乱する。
「本州が沈んだ」
老人の言葉が現実味を帯びていく。
核戦争。第三次世界大戦。宇宙からの侵略者。
これが現実なのか?それとも悪夢か?
幻覚か現実か。
7頭の巨大なスフィンクス。円を描いて座る。翼がある。
太陽が昇り、スフィンクスが走り出す。
光の竜巻。巨大な光の柱。
意味不明な光景が脳裏に焼き付く。
記憶の欠片が乱舞する。現実と幻想の境界が曖昧になる。
私は誰だ?ここはどこだ?
公園のベンチに座り、古い黄色いバッグを抱きしめる。隣には見知らぬ老人。
「若いの、お前さんもここに流れ着いたのか?」
流れ着いた?どこから?
「ええ、気がついたらここにいて…」
言葉が途切れる。何も思い出せない。
「ここってどこなんですか?」
愚問だと分かっていた。でも聞かずにはいられなかった。
老人の表情が歪む。「なに、知らないのか?ここは昔の北海道だよ」
北海道?いつの間に北海道まで来たんだ?
「本州が沈んでからね、ここが日本の最後の砦になったんだ」
頭の中で警報が鳴り響く。本州が沈んだ?冗談だろう?
「本州が…沈んだ?」
声が震える。現実を受け入れられない。
老人の目が悲しみに曇る。「そうさ。第三次世界大戦の後でな。核戦争で本州は海に沈み、残った我々は北海道に逃げてきたんだ」
核戦争?第三次世界大戦?頭が痛くなる。
記憶の中で、水面から昇る火の玉が蘇る。あれは…核爆発だったのか?
「だが、それも束の間の平和だった」
老人の言葉が続く。私の混乱した思考に追い打ちをかける。
「宇宙からの侵略者が来てね。今じゃあ奴らが世界を支配している。我々人類は、彼らの奴隷同然さ」
宇宙からの侵略者。その言葉に、別の記憶が呼び覚まされる。
戦い。勝利。逃げていく敵。
「でも、先日宇宙からの侵略者と戦って勝ったはずでは…」
言葉が口をついて出る。しかし、それが本当に自分の記憶なのか、確信が持てない。
老人は首を振る。「若いの、それは幻想だ。たまに起こる抵抗運動のことだろう。だが、本当の勝利なんてない。この世界はもう、ディストピアなんだよ」
ディストピア。その言葉が重くのしかかる。
黄色いバッグを強く抱きしめる。中に入っているスマホのようなもの。それが何なのか、どこから来たのか、分からない。
でも、何か重要なものだという直感がある。
「でも、希望はあるはずです」
自分の声が遠くから聞こえてくる。
老人が微笑む。「そうだな。希望を捨てちゃいけない」
その言葉に、少しだけ心が落ち着く。
「さて、そのバッグ、何か特別なものかい?」
老人の目が黄色いバッグに向けられる。
「はい、きっと何か重要なものです。これで、この世界を変えられるかもしれない」
そう言いながら、自分でも何を言っているのか分からなくなる。
なぜこのバッグが重要なのか?どうやってこの世界を変えるというのか?
答えは見つからない。ただ、そう信じるしかない。
夜が明ける。朝日が地平線から昇る。
7つのスフィンクスの幻影が目の前をよぎる。
円を描いて座るスフィンクス。それぞれ違う顔、違う体型。でも、みな翼がある。
太陽の光を浴びて、スフィンクスが走り出す。
光の竜巻。巨大な光の柱。
意味不明な光景。でも、何かを伝えようとしている。
黄色いバッグの中のスマホのようなもの。それと、このビジョンは繋がっているのか?
頭が混乱する。何が現実で、何が幻想なのか。もう区別がつかない。
ただ一つ確かなのは、この世界が正常ではないということ。
本州は沈み、宇宙人が支配する。そんな世界で、自分は何をすべきなのか。
黄色いバッグを見つめる。この中に答えがあるのか?
「若いの、これからどうするんだい?」
老人の声に我に返る。
「わかりません。でも、このバッグの秘密を解き明かさなければ」
そう答えながら、自分の中に芽生えた使命感に驚く。
記憶はない。自分が何者かも分からない。
それでも、この世界を変えなければならない。そう直感が告げている。
「そうか。じゃあ、気をつけて行けよ。この世界は危険でね」
老人の言葉に頷く。
立ち上がり、黄色いバッグを肩にかける。
どこへ向かうのか。何をすべきなのか。
答えは見つからない。でも、歩き出すしかない。
この歪んだ世界で、自分の役割を見つけるために。
記憶を取り戻すために。
そして、もしかしたら、世界を救うために。
曖昧な希望を胸に、一歩を踏み出す。
不確かな未来へと続く道を、ゆっくりと歩き始める。