ニューヨークの地下鉄駅。騒々しい人々の足音と電車の轟音の中、一つの澄んだ歌声が響き渡っていた。
「♪ 夢は遠く 手の届かぬ場所に…」
その歌声の主は、ジョン。28歳、5年前から毎日ここで歌い続けるストリートミュージシャンだ。
ある日、いつものように歌っていると、スーツ姿の中年男性が足を止めた。
「君、素晴らしい声だね。俺はマイク・ジョンソン。レコード会社のプロデューサーだ」
ジョンは驚いた。噂には聞いていたが、まさか本当にスカウトされるとは。
数ヶ月後、ジョンはメジャーデビューを果たした。華々しいデビューアルバムは大ヒットし、一躍スターの仲間入りを果たす。
しかし、栄光は長く続かなかった。1年後、音楽業界の激変で契約を打ち切られてしまったのだ。
落胆するジョンに、かつての仲間が声をかけた。
「ジョン、覚えてるか?日蓮大聖人の言葉を。『冬は必ず春となりてかへるべし』って」
ジョンは苦笑いを浮かべた。「ああ、覚えてる。でも今は冬の真っ只中だよ」
「だからこそ、春はすぐそこさ。原点に戻ろう、ジョン」
その言葉に背中を押され、ジョンは再び路上で歌うことを決意した。
最初は辛かった。でも、日に日に心が軽くなっていくのを感じた。今度は自由に、心から音楽を楽しめたからだ。
ある日、ジョンの歌に合わせてギターを弾き始める青年がいた。
「俺、トム。君の歌、すごくいいね」
次の日には、ドラムを叩く少女が加わった。
「私はサラ。あなたたちの音に惹かれちゃった」
そうして、ジョンを中心に新しいバンドが結成された。彼らは独自の音楽スタイルを追求し、少しずつファンを増やしていった。
半年後、小さなライブハウスでの初ライブ。満員の観客を前に、ジョンは思わず涙ぐんだ。
マイクを握り、ジョンは語りかけた。
「みんな、来てくれてありがとう。俺たちの音楽を聴いてほしい。そして、忘れないでほしい。『苦悩の後には必ず歓喜来たる』ってね」
日蓮大聖人の言葉を借りながら、ジョンは自身の経験を歌に込めた。落ちても立ち上がる強さ、仲間との絆、そして音楽への純粋な愛。
ライブが終わり、楽屋に戻ったジョンたち。興奮冷めやらぬ中、ノックの音が聞こえた。
ドアを開けると、そこにはかつてのプロデューサー、マイクが立っていた。
「久しぶりだな、ジョン。素晴らしいライブだった。君たちの音楽、もう一度世界に届けてみないか?」
ジョンは仲間たちを見た。みんなの目が輝いている。
「ああ、でも今度は俺たちのやり方でね」
マイクは笑顔で頷いた。
冬を越え、ようやく訪れた春。ジョンたちの新たな音楽の旅が、ここから始まるのだった。