東京の高層ビル58階、山田健一郎の新しいオフィスからは、スカイツリーが遠くに見えた。10年間の努力が実を結び、ついに部長に昇進した健一郎は、窓際に立ち、胸を膨らませた。
「やっと、ここまで来たんだ」
その夜、妻の美穂と娘の栞との祝賀会。
「お父さん、おめでとう!」栞が健一郎に抱きついた。
「ありがとう。これからもっと頑張るよ」健一郎は娘の頭を優しく撫でた。
「健一郎、本当によかったわね」美穂が微笑んだ。「でも、無理はしないでね」
「ああ、大丈夫さ。これからが本番だからね」
健一郎は自信に満ちた笑顔を見せた。しかし、その幸せは長くは続かなかった。
半年後、会社は突如として経営危機に陥った。リストラの嵐が吹き荒れ、健一郎もその渦中に巻き込まれた。
「山田さん、申し訳ない。君の実力は認めているが…」社長の声は重かった。
「分かりました。お世話になりました」健一郎は深々と頭を下げた。
家に帰ると、美穂が心配そうに迎えた。
「大丈夫?何かあったの?」
「…リストラされた」健一郎は肩を落とした。
「まあ…」美穂は言葉を失った。
途方に暮れる日々が続いた。健一郎は自宅の書斎で、祖父から受け継いだ古い書物を手に取った。それは日蓮大聖人の教えを記したものだった。ページをめくると、ある一節が目に飛び込んできた。
「『困難に直面したとき、それは後退ではなく、飛躍のチャンスである』…日蓮大聖人の言葉か」健一郎は呟いた。
その時、美穂が部屋に入ってきた。
「何を読んでいるの?」
「ああ、祖父の形見の本さ。日蓮大聖人の教えが書かれている」
「へえ、何て書いてあるの?」
「『困難に直面したとき、それは後退ではなく、飛躍のチャンスである』だって。今の俺たちにぴったりかもしれないな」
「そうね。私たちも、この困難を乗り越えて、もっと強くなれるわ」
二人は静かに微笑み合った。その瞬間、健一郎の携帯電話が鳴った。大学時代の友人・田中からだった。
「健一郎、久しぶり。実はITベンチャーを立ち上げようと思ってね…」
途方に暮れる日々が続いた。そんなある日、大学時代の友人・田中から連絡が入った。
「健一郎、久しぶり。実はITベンチャーを立ち上げようと思ってね。君の経験を活かせると思うんだ。一緒にやらないか?」
健一郎は躊躇した。安定を求めてきた人生から大きく外れる選択。しかし、美穂の言葉が背中を押した。
「健一郎、挑戦してみたら?あなたならきっとできるわ」
決意を固めた健一郎は、田中とのミーティングに臨んだ。
「うん、面白そうだ。やってみよう」健一郎の目に再び輝きが戻った。
ベンチャー企業の立ち上げは困難の連続だった。しかし、健一郎の経営経験と田中の技術力が見事に融合し、予想以上の成功を収めていった。
1年後、オフィスの窓から東京の街を見下ろす健一郎。
「健一郎、すごいよ。こんなに早く軌道に乗るなんて」田中が驚きの表情で言った。
「いや、みんなのおかげさ。特に、君の技術がなければここまで来れなかった」
「いやいや、健一郎の経営センスがあったからこそだよ」
二人は笑い合った。その時、美穂から電話がかかってきた。
「どう?順調?」
「ああ、予想以上にね。ありがとう、美穂。君の後押しがなければ、ここまで来れなかった」
「当たり前よ。あなたの可能性を信じてたもの」
電話を切った健一郎の顔に、穏やかな笑みが浮かんだ。窓の外では、新しい朝日が昇り始めていた。